2024年01月24日
安宰賢/アン・ジェヒョン
1999年12月25日生まれ、韓国出身。2014年アジアジュニア&カデット選手権カデット男子シングルス優勝、2018年アジアジュニア&カデット選手権ジュニア男子ダブルス優勝、2019年世界選手権ブダペスト大会3位、2022年世界選手権(団体戦)3位、2022年WTTシンガポールスマッシュベスト16、2023WTTスターコンテンダー ゴアベスト8、右シェーク両面裏ソフトドライブ型、韓国取引所所属、世界ランキング34位(2024年1月現在)
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XIOMというメーカーは「世界初」とか「前代未聞」といったセンセーショナルなプロダクトを世に生み出すのが得意だ。今回紹介するアン・ジェヒョンモデルのラケット2本もご多分に漏れず、世界初の画期的な新素材が組み込まれた野心的な製品となっている。
その特殊素材の名は「トライメトリックス」(TMX)。アクシリウム、ゼフィリウム、カーボンという3種の繊維素材が1枚に編み込まれている。なんだ、それだけかと言うなかれ。この3種混合素材開発の裏には、涙ぐましい努力が隠されているのだ。
通例、卓球ラケットに組み込まれる混合特殊素材は、そのほとんどが2種の編み合わせから成っている。なぜかと言えば、3種類目を編み込むと途端に打球感がおかしくなり、とてもではないが製品化できないようなラケットとなってしまうからだ。
一般的なメーカーならそこで断念しそうなものだが、XIOMは執念深く開発を続けた。そしてついに、3種混合でも打球感のバランスを損なわない――それどころか、2種混合をはるかに上回るポテンシャルを秘めたオリジナル素材TMXの完成に漕ぎつけたのだ。
卓球競技のショットには、スピン・スピード・コントロールの3要素が求められるが、TMXはそのすべてを網羅している。スピンを生み出すアクシリウム、スピードを生み出すカーボン、コントロールを生み出すゼフィリウム……そんな3要素を1枚に集約した夢の素材は、他に類を見ないものだ。
一般的に、スピンを重視したブレードではスピードが出ず、スピードを重視したブレードではスピンがかかりにくくなる。コントロールを重視したブレードだと、スピンもスピードも物足りなくなってしまう。では、すべてを犠牲にしないハイバランスブレードを作るには……その答えが、このTMXだったのだ。
TMXを搭載したラケット初号機は、2022年春にアン・ジェヒョンTMXiとしてリリースされた。158mm×152mmという大型ブレードのインナーポジションにTMXを組み込んだパワータイプのラケットは、縦横無尽にコートを駆け回り、ファンタスティックなテクニックで観衆を酔わせ、隙あらば破壊力満点のウイニングショットを打ち込んでいくアン・ジェヒョンのスタイルを総合的にサポートしている。
グッとディープにつかんだボールには強烈なドライブ回転がかかり、相手コートへ猛獣のように飛びかかっていく。しなやかな打球感で小技のコントロールが良いのに、いざという時には爆発的な威力を出せる。オールラウンドかつパワフルなプレーを志向するプレーヤーにとって、このラケットのスペックはまさに理想的である。
ただ、アン・ジェヒョンTMXiには弱点があった。それが「重さ」だ。男子のトッププレーヤーなら使いこなせる重量ではあるが、一般ユーザーにとってはかなりヘビーで取り回しが難しかった。そこで、XIOMはTMX搭載ラケットの新バージョン開発に取りかかる。そして誕生したのが、2023年春リリースのアン・ジェヒョンTMXだ。
iが取れたネーミングからもわかるように、アン・ジェヒョンTMXはアウターラケットである。表層木材の直下にTMXを組み込むことでよりシャープな打球感と球離れの早さを実現。ブレードサイズも157mm×150mmの標準タイプとなり、軽量化が図られた。
軽量なアウターラケットと聞くと、前陣専用機で中後陣からのボールの伸びには期待できないのでは?と思うプレーヤーが多いかもしれないが、アン・ジェヒョンTMXはひと味違う。アウターながらボールのつかみにすぐれた革新素材TMXのおかげで、後ろからでも失速感がなくグングン伸びるドライブを放つことが可能だ。
もちろん、前陣での光のごとき速攻プレーは十八番。小型化によりハンドリングが容易になったブレードはアウターならではの弾きの良さと相まって、台上のチキータやフリックで先手を取って一気呵成の波状攻撃を仕掛ける、といった超アグレッシブなプレーを楽しむことができる。
2019年、19歳の時に初出場の世界選手権で黄鎮廷(中国香港)、モーレゴード(スウェーデン)、張本智和(日本)、ジャン・ウジン(韓国)を連破。いきなり3位という華々しいデビューを飾ったアン・ジェヒョンだが、その後はやや伸び悩んだ。近年は復活の兆しを見せているが、その相棒となっているのがほかならぬアン・ジェヒョンTMXiだ。
しなやかさとボールの伸びを演出するアクシリウム、正確性とクリアな打球感を生むゼフィリウム、反発力を増強するカーボン。この3素材それぞれの美点を余すところなく活かしたTMXという革新的な素材が、眠れる才能を再び呼び起こしつつある。
今、自分の卓球に限界や行き詰まりを感じているような一般プレーヤーにとっても、TMX搭載のアン・ジェヒョンモデルは救世主になってくれるかもしれない。もっとパワーやスピンが欲しいならインナータイプのアン・ジェヒョンTMXi。もっとスピードや爽快な打ち心地が欲しいならアウタータイプのアン・ジェヒョンTMX。
いずれも、世界初のフィーリングを提供してくれるゴキゲンな1本だ。今までのプレースタイルを刷新したい、人とは違う卓球をしてみたい、中級者から上級者への階段を昇りたい、ライバルに決定的な差をつけたい……そんな願いを持つブレイク間近の選手にとって、この2アイテムは起爆剤となるポテンシャルを秘めている。
写真=WTT
攻撃用インナーラケット
合板構成
木材5枚+TMX2枚
ブレード厚 5.9mm
重量 88g±
グリップ FL、ST
¥24,200(税込)